不平文士の節酒日記~ADHD 死闘篇

アルコール使用障害とADHD に立ち向かいつつある技術系会社員のブログ

『ハウルの動く城』

木村拓也の声が不自然という前評判が伝わっていましたが、全然そんなことはなかったです。週刊誌の記事だったと思いますが、原稿を書いた記者のやっかみだったに相違ありません。
もちろんプロの声優に比べると「らしく」はなかったですが、それも狙いの一つなのでしょう。
倍賞千恵子はちょっと違和感がありましたけど、傷というほどでもなく。
美輪明宏は文句なく最高でした。化け物ですね、彼女は。
作品に傷があったとすれば、作品全体のバックグラウンドになっている戦争と戦闘の描写が大甘である点は指摘できます。国民の視点から何のための戦争か見えないのは良いのですが、ならば最後までそれを通すべきで、権力者の下らない台詞で総括するなどもってのほかです。
戦闘描写の快楽を慎重に避けていたのはわかりましたが、満身創痍で入港してきた戦艦は、水兵を道連れにして沈むところまできっちり描くべきです。あれでは『名探偵ホームズ』で犬の水兵が逃げ出すシーンと大差がない*1ハウルが魔を掛けた飛行戦艦も、『未来少年コナン』『風の谷のナウシカ』の頃の宮崎駿ならば、ためらわず墜落・炎上させていたでしょう。
主人公に絡んでくる兵隊は、もっと怖くて嫌らしい存在に見えているはずだし、魔法使いの家に捜索をかける兵隊はもっと粗暴で殺気立っていなければならない。
魔法使いの話とはいえ、神ではない以上、視点の意識を持たなければいけないのは当然のことです。
ディズニーとの契約で人が死ぬような描写は入れられなかったのかもしれませんが、ならば戦争を前面に持って来るべきではなかった。
映像的には、水のCG描写がこなれていた点の他には強い印象を受ける場面が少なく、背景も並で、劇場に足を向けさせる力は弱いと感じました。
その証拠に、新大久保のうまいタイ料理店に入り、料理が出てきたとたんに映画のことは忘れてしまいました。
今年はベテラン監督のアニメーション大作が目白押しでしたが、個人的には圧倒的な動画力と緻密な描き込みを見せつけてくれた『スチームボーイ』が抜きん出ていたと思います。
そうそう、『ハウル』には何の役にも立たない使い魔の犬が出てくるんですが、これは明らかに押井守がモデルでした。もちろん、犬描写では『イノセンス』に軍配が上がります。

*1:『名探偵ホームズ』は素晴らしい作品ですが、あくまでもコメディですから。