不平文士の節酒日記~ADHD 死闘篇

アルコール使用障害とADHD に立ち向かいつつある技術系会社員のブログ

野沢尚、死す。

わたしがこの書き手の名を覚えたのは、『STAY GOLD』というすごく少女趣味な映画の脚本家としてです。この映画は当時売れっ子の漫画家だった川原由美子の原作として宣伝されましたが、これはどうやらウソだったらしく、原案としてもクレジットされ、ノベライズを担当した野沢がゴーストとして原作を担当したと見ていいでしょう。
このノベライズで、野沢はスティーブン・キングの『STAND BY ME』の少女版を狙ったと宣言しています。1988年、彼が27才か28才の時でした。
映画は、デビュー2作目の深津絵里(水原理絵)が放つ輝きに救われているものの、低予算とそれも関係した画面構成の貧困さから、高い評価を得ることはありませんでした。
わたしはその後、とくに彼の仕事を追いかけることはありませんでした。
しかし、偶然見た彼の名を冠したTVドラマが、90年代末期、そして現在までいくつかの大学で闘われた/ている学園闘争を、「情感」とノスタルジーのみで描いていたのには、怒りを覚えました。
この理不尽尽くめで憂鬱な闘争は、大学資本と国家管理による権力のやりたい放題であったにもかかわらず、マスコミは一部の写真週刊誌や『噂の真相』を除き、その実態をほぼまったく報道しなかったのです。
野沢は、司馬遼の『坂の上の雲』を大河ドラマにするにあたって脚本家に抜擢されていたそうです。
国家同士の意志と暴虐を、個々人の情感の影に塗り込めようとする、NHKの意図を感じざるを得ません。
少女の感性を持ち続けた野沢は、もしかしたら、それに耐えられなかったのかも知れない。
自分に引きつけて考えすぎているのはわかっていますが、かつてそれなりに『STAY GOLD』を愛した観客として、野沢の苦闘に哀悼の意を表したいと思います。
そう、『STAY GOLD』は、ひとりの少女の自死から始まる物語でした……。