不平文士の節酒日記~ADHD 死闘篇

アルコール使用障害とADHD に立ち向かいつつある技術系会社員のブログ

『海野十三敗戦日記』

海野十三といえば、日本SFの父ともいわれる人ですが、彼が空襲下の帝都でつけていた日記が中公文庫から新刊として出ています。
http://www.chuko.co.jp/new/2005/07/204561.html
SF作家というと合理主義の塊というイメージがあるのですが、熱烈な反共主義者だったロバート・A・ハインラインですとか、ハードSF研究所の所長にして靖國神社崇敬奉賛会終身会員である石原藤夫のように、合理主義と政治的立場の偏りは両立し得ます。
合理的知性が戦争末期の状況をどう見ていたかは、一読の価値があると思います。
海野は元々科学推理小説の書き手ですが、戦前から軍事科学小説を書いて戦略都市爆撃に警鐘を鳴らし、戦時中は海軍報道班員として最前線のラバウルまで従軍した人物です。
空襲下においても旺盛な戦意を示しますが、原子爆弾の炸裂とソ連の参戦によって一瞬にしてその戦意が打ち砕かれる様は、ある種ドラマティックですらあります。
彼は家族全員と自決しようとしながら、周囲に諌められて思い留まりますが、戦時中に失った健康を取り戻せぬまま終戦の4年後に亡くなりました。
この本、定価780円ですが、なんと!青空文庫に収録されているではありませんか!
http://mirror.aozora.gr.jp/cards/000160/files/1255_6571.html
中公文庫版には海野の友人にして編者でもある橋本哲男の手になるたいへん長い解説と、SF歯科(史家)の長山靖生が新たに書きおろした文庫版解説が加わっていますが、そのかわり青空文庫に収録されている昭和二十一年元旦以降の部分が収められていません。
迷わず青空文庫へ。