不平文士の節酒日記~ADHD 死闘篇

アルコール使用障害とADHD に立ち向かいつつある技術系会社員のブログ

再会

先日、出張から帰着する電車から、ふと以前よく訪ねた街で降りた。暗記していた電話番号を押すと、学生時代と変わらない先輩の声。もういい時間だというのに、こちらも学生に戻って、これから飲みませんかと誘ってみた。二つ返事で了解する声。
駅の階段を下りると、街の色は変わって見えた。前は、ソフトフォーカスじみた言いようのない雰囲気を感じたものだったが、今見ると賑やかな、ただの街だ。
先輩は落ち着いて見えた。茶目っ気と山っ気を滲ませた目や口の端が、わたしは正直少し苦手だったのだが、涼やかなものになっていた。
聞くと、もう12本も自分の作品を撮っているという。スタッフの前でちゃらんぽらんな真似はできないじゃん、と言う彼は、確かに年相応の大人なのだった。
彼が撮っているのは普通のユーザーの目にはなかなか触れない分野だが、新作のプロットは魅力的だった。
何故か綿矢りさの話題になったので聞いていると、「大したことないけど、確かに俺のよりは面白かったな」という先輩は、実は文芸賞に落とされていたのだった。
彼はわたしが5年半ほど前に書いた文章を読んでいて、そこに仕込まれた彼へのメッセージが届いていたことに、わたしは心の中で喜んだ。
ふたりともへべれけにならない程度に飲んで、終電までまだ大部間がある電車に乗った。